「命の大切さ伝えたい」(ひと言葉)

闘病経験語る折り紙講師 鈴木千絵さん(27)

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「自分の作りたいものが1枚の紙で作れる。そこが魅力」と言う(自作の「菊の花」を前に)=いわき市の自宅で

 「どんなに生きたくても、病気で生き続けることが出来ない人たちがたくさんいます。そのことだけは忘れないでください」

 9月、児童が集まったいわき市立好間二小の体育館。一言一言をかみしめるように語りかけると、会場は水を打ったように静まりかえった。

 2万人に1人という難病と闘いながら、学校などを回り、折り紙を教え、命の大切さを訴えている。

 産声をあげたとき、既に骨が5か所折れていた。先天性の「骨形成不全症」。骨の組織がもろく、成長する筋肉の力に耐えられない。医師は、「ガラス細工のように扱いなさい」「3歳くらいまでしか生きられません」と、母に告げた。

 成長するにつれて背骨がS字型に曲がり、肺が圧迫されるようになった。酸素を取り込む力が小さいため、抵抗力が弱い。小中学生の頃は風邪をひいただけで、1か月間入院することが毎年のようにあった。「いつも死を感じざるをえない」毎日の中で、出会ったのが、折り紙だった。

 小中高と車いすで通った県立平養護学校(いわき市)では、周りの人が壊れ物に接するように優しくしてくれた。「それが特別扱いに見えたのかも」。中学1年のとき、いじめにあい、教室で孤立してしまった。そんな時だった。小学校時代の恩師が「折り紙教室に通ってみたら」と勧めてくれた。

 「最初は嫌なことを忘れようと思って通ったけど、1枚の紙でバラや箱をつくるうちに、『もっと本物らしくできないかな』ってワクワクしながらのめり込んでいった」

 

15センチ四方の1枚の紙が、50回以上の折り返しを経て立体的なバラに仕上がる。教室の先生からは「バラは(難しくて)無理」と言われたが、「絶対に作りたい」と約1年でマスターした。18歳で、50種類の作品を審査する折り紙協会の試験に合格し、折り紙講師の資格を取った。「紙と手だけで形が出来ちゃう魔法。折っているときは、無心になれるんです」

 卒業後は、パソコンを使った仕事をしようと、専門学校への進学を目指したが、90分間続く授業に耐える体力はない。あきらめざるを得なかった。「折り紙が仕事になるのだろうか」。不安を抱えつつ、「折り紙を通じて、命の大切さを伝えられたら」と、7年前、学校や公民館で折り紙教室を始め、闘病のことなど経験を語るようになった。

 時間をかけて折り紙をつくる生徒が、最後までやり通して、完成したときに「本当にできた。やったー」と喜ぶ姿を見るのがうれしい。

 「友達との外出や進学。病気のせいであきらめてきたことはたくさんあった。だけど、障害者が特別だとは思っていないし、普段から意識している訳じゃない。命を粗末にする人が多いと思うから、あきらめない気持ちの尊さを知ってもらいたいんです」いわき市在住。JRいわき駅前の「ラトブ」3階で、紅葉や菊などの折り紙作品数点を展示中。

作品を紹介するホームページは、http://www.ht‐net21.ne.jp/〜paper‐p/

2009年10月5日  読売新聞)

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